- 記事
- 気持ちから探す
- 前向きになりたいとき
- 【大敗から学ぶvol.2】失敗を連鎖させない"心"の技術
【大敗から学ぶvol.2】失敗を連鎖させない"心"の技術
私たちは毎日の仕事の中でも、勝ちと負けを繰り返しています。ミッションの目標を達成できなかったり、競争に遅れをとったときは負け、大きく届かなければ「大敗」と言ってよいでしょう。能力が及ばないこともありますが、小さなきっかけで失敗が失敗を呼ぶ負のスパイラルに陥り、まるで自ら大敗に向かっているような経験はないでしょうか?
どうやら仕事の大敗には、心の問題が大きく関わっているようです。日本産業カウンセラー協会常務理事の田中節子さんは、大敗を防ぐメンタルの力を教えてくれました。
ひとつの失敗に動揺し判断ミスを重ねる
−仕事で失敗を重ねるのはどんなパターンでしょうか?
誰もが仕事に対して成功のイメージやプランを持っています。しかし、その歯車が狂ったとき、心理的に大きく動揺する人がいます。冷静な判断ができなかった結果、失敗を重ねるケースが多いようです。
考えてみれば、仕事で失敗したり、勝負事に負ける原因はさまざまなのは明らかです。競争相手が強すぎることもあるし、会社の戦略や上司の指示が間違っていたのかもしれません。運もコトの成功・失敗を大きくわけます。
しかし、仕事で失敗を重ねる人は、どこかで「すべて自分のせい」と考えています。この思い込みは「失敗してはならない」という失敗恐怖から生じます。そして心理学用語で「般化」という心のはたらきが起こります。彼らは過去の体験と似た状況に直面すると、同じ結果になると思い込んでしまいます。失敗を経験することで「また失敗するのではないか」と精神の安定を失い負の連鎖に陥ります。行き過ぎれば、「自分は失敗する人間だ」「失敗は自分のせいだ」と考えてしまうのです。
「あるべき姿」に固着しすぎない
いっぽうで、失敗を失敗と認められず、結果的に大敗するパターンもあります。前述のように、ひとつの「負け」を必要以上にネガティブに受け止めてしまう人とは対照的に、事実のネガティブな面から目を背けてしまうのです。
どちらも、問題の根本は同じで、「こうあるべき」「あらねばならない」という「固着」が原因です。自分の描いたイメージやプランに固着するから、前者は少し歯車が狂うだけで冷静さを失い、後者は歯車が狂ったことを無視してしまうのです。
レジリエンス=しなやかさの重要性
そこで、いま企業経営でも注目されるのが「レジリエンス」というキーワード。「復元力」「弾力性」などと邦訳される概念で、一言で言えば「しなやかさ」です。
レジリエンスに富む人は、「こうあるべき」「あらねばならない」という思考に固着しません。仕事で失敗しても、その事実を正しく評価し、状況に応じて冷静な判断と行動ができます。しなやかさこそ、失敗の連鎖=大敗を避ける重要な能力です。
レジリエンスを身につけるには、「どうにもならないことで悩まない」ことです。自分で変えられないことにこだわっていると、固着し、冷静さを失い、失敗を重ねます。そんなことはさっさと諦めて、自分がいまできることに全力を注ぐのです。
過去と他人のことで悩んでも意味がない
−どうにもならないことと、自分で変えられることの境界はどこにあるのでしょうか?
まず、過去はどうにもなりません。反省はするべきですが、後悔ばかりしていると判断力は鈍ります。
しかし、過去の受け取り方を変えることはできます。失敗を「大きなダメージを受けた」ととらえるのか、「この程度のダメージですんだ」ととらえるのかは、大きな違いです。
もうひとつ変えられないのが、他人です。
あなたは、あなたの親が思った通りの人になっているでしょうか? あなたの子どもは、あなたの思った通りに育っているでしょうか? 血がつながった親子でさえ、相手を変えることなどできません。他人であればなおさらです。
しかし、他人の言動の受け取り方を変えることはできます。上司の無茶振りを「私にだけ仕事を押し付けられた」と受け取るか、「仕事を任された。私は期待されている」と受け取るか。
この場合の「いまできること」は振られた仕事を一生懸命がんばること、ではありません。一人でさばききれないタスクなら、抱えている仕事量、自分の作業ペースなど事実を説明し、指示を見直してもらうよう交渉することです。
このとき、「任された」と受け取ってポジティブな感情で上司と話すほうが、コミュニケーションはうまくいきます。ポジティブな言葉を投げかければ、上司もポジティブな感情で応えてくれるでしょう。建設的な話し合いがしやすくなります。
「押し付けられた」とネガティブに受け取ると、話し合うことすらせず、嫌々ながら作業することになりかねません。ビジネスの場では理性的な判断が必要ですが、実際の行動は得てして感情によって規定されます。
ネガティブな感情に任せて行動すると、判断ミスを犯したり、他人のネガティブな感情と行動を引き起こす原因になります。失敗を重ねるほどその傾向は強まり、ドツボにはまって大敗します。
受け取り方の「クセ」を知れば補正できる
−そうは言っても、受け取り方を変えることは簡単ではないのではないでしょうか。
その通りです。「ポジティブに考えて!」と言われ、その通りにできたら、こんなに楽なことはありません。
まず、事実と感情の間に、受け取り方という大きなブラックボックスがあることを理解してください。私たちは事実と感情が直結したものと考えがちで、事実の受け取り方で感情が変わることを忘れています。そして、受け取り方は本当に多様で、多くの人は自分がどんなふうに受け取るかを理解していません。
ブラックボックスの存在を理解したら、受け取り方の「クセ」を知ってください。事実のマイナス面を大きく受け止める人は、「自分の嫌な感情ほど事実は深刻ではない」と補正できます。反対にマイナス面から目を背けてしまう人は、「見落としているプラスの面があるかもしれない」と考え直すことができます。
一呼吸おいて受け取り方のクセに光を当てることで、事実を冷静に評価できるようになります。感情に任せて行動してはいけません。
また、固着から逃れるためにも、思考の「言葉」を置き換えてみることをおすすめします。大敗する人は、次のような言葉で考えがちです。
「〜のせいでこうなった」
「〜であるべき」
「〜しか」
それをこんなふうに置き換えてみてください。
「大敗するかも!?」とピンチに陥ったとき、硬直した思考と感情を解きほぐし、レジリエンスを取り戻すことに役立ちます。
編集部まとめ
孫子の教えに「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」があります。ミッションへ取り組むにあたって、仕事の内容や競争相手は十分に調べるでしょう。大敗を防ぐには、それ以上にまず自分を知ることが大切なのかもしれません。
そして、大敗を防ぐのに重要な「レジリエンス」は、ストレスフルな仕事を前向きに楽しむにも欠かせない能力です。企業、社会が何より必要とする、現代のビジネスパーソンに最重要スキルと言えます。
取材:日本産業カウンセラー協会常務理事 田中節子さん
長年にわたり、南海放送のテレビ・ラジオの番組制作・出演に携わる。心の支援者としての活動は、学校・企業などで「シニア産業カウンセラー」「キャリアコンサルタント」として心の健康づくりのサポート、コミュニケーション能力アップの指導、管理職向けの研修のほか、個別カウンセリングにも応じている。また働く人たちの心のケアをする専門家である産業カウンセラーの育成にも講師、実技指導者として従事。
現在は、日本産業カウンセラー協会常務理事として、御成門の協会本部で産業カウンセリングの発展と産業カウンセラーの育成、認知度向上に力を注いでいる。一方、国家資格キャリアコンサルタントの養成講習、更新講習の企画ならびに講師としても東京と松山で活動。
共著に「産業カウンセラーの目」 ((社)全国労働基準関係団体連合会)、「60歳からのルネッサンス」(学芸社)などがある。
この記事が気に入ったらいいね!しよう