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世界がぜんたい幸福にならないうちは、個人の幸福はありえない・・まずもろともにかがやく宇宙の微塵となりて、無方の空にちらばろう。

詩人・童話作家 宮沢賢治『農民芸術概論要綱』

宮沢賢治は宇宙のすべてのものは、あるものが他のものを引き起こし、おたがいが縁となって網の目のように一つにつながっているという、仏教的な宇宙観をもっていた。過去に生きた命も、未来に生まれるであろう命も、銀河系の中でひとつの縁の絆で離れがたく結ばれ、つながっている。そのような目に見えない不思議な縁の絆によって結ばれた命の世界を、賢治は『銀河鉄道の夜』で美しく形象化して描いた。銀河の星々のように輝く無数の命の背後には、無限の過去から未来へと連なる大きな業のいとなみをもつ永遠の仏の命がある。そう考えた賢治は、銀河系をみずからの中に意識し、それに応じて、世界ぜんたいの幸福のために生きよと呼びかける。そのために我われは輝く宇宙の微塵となって世界にちらばり、一人ひとりがそれぞれの持場で自分の仕事に励むのである。その一つひとつの微塵のごとき仕事は、じつにささやかなものであろうが、かけがえのないものであり、それらが網の目のようにつながって人の世をつくり、過去から未来へとつながり、世界の幸福を生み出すのである。

もういちど読む山川哲学 ことばと用語、84ページ、2015年、山川出版社

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