海防論(かいぼうろん)
江戸後期,欧米列強の東アジア進出に対して日本沿岸の防備充実を主張した議論。ロシアの蝦夷地への接近を知り,世界情勢と軍備の充実を説いた林子平(しへい)の「海国兵談」(1786成立)をその嚆矢とする。以後,防衛面からの要請だけでなく,欧米列強の行動が民衆の不満と結びつく危険性を含めて,海防は為政者・識者の重要問題となった。欧米列強の通商要求が頻繁化すると,識者の意見は鎖国維持論と開国論(避戦のための消極的開国を含む)にわかれたが,幕藩体制自体が意識上,日本の軍事的卓越を前提として成立していたため,海防の充実は避けて通れない課題であった。対外的危機意識が深まった天保期以降,海防に関する議論は,西洋軍事技術の導入による軍事力強化の主張と鎖国・攘夷論とが,国内の政治体制のあり方をめぐる議論とからみあいつつ展開された。 (山川 日本史小辞典(改訂新版), 2016年, 山川出版社)
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