山岳信仰(さんがくしんこう)
山に対する信仰の総称で,特定の山を崇拝して種々の儀礼を行うこともいう。日本の山岳信仰の根底には,山容や火山の爆発からうける神秘性や畏敬畏怖の念,農耕に不可欠な水の供給源の聖地としての観念,死霊や祖霊のすむ他界としての観念などがみられる。山そのものを神体としたり,山の神と田の神が交代する信仰や山人伝承,死霊が山にとどまり祖霊化する信仰などは,こうした観念にもとづく。のちに仏教と接することでより複雑化した。山中他界の信仰と仏教の死者供養とが結びつき山岳寺院に死体の一部を納める信仰が奈良時代にうまれ,平安中期以降山岳修行により呪術的な力を獲得して宗教活動をする山伏(修験者)が出現して,日本の山岳信仰を特徴づけた。修験者の指導によって講が組織され,本来仰ぎみる信仰対象であった山岳は,しだいに参詣登拝の対象となる。霊山・名山の多くは江戸時代に庶民の登拝対象になった。明治期以降うまれた多数の教派神道は,こうした山岳を拠点としている。 (山川 日本史小辞典(改訂新版), 2016年, 山川出版社)
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