質(しち)
貸借契約などの契約の保証物件。古代の令の規定では,返済が滞ると質物を売却し,代価から元利分だけを債権者がとる売却質が原則だった。しかし,平安時代に質物の所有権自体を移す帰属質が派生し,以後主流となり,中世の質には入質(いれじち)・見質(現質(げんじち))の区別が生じた。前者は,契約と同時に質地・質物の占有が債権者に移転する質(現在の質)で,後者は,債務不履行の場合はじめて所有権が債権者に移転する質(抵当)であった。このような質入れ・質取りの対象は,不動産だけでなく人間にもおよんだ。見質としての人質のほか年貢を滞納した百姓の妻子を地頭が差し押さえて身代(みのしろ)とする人質,戦国大名の同盟の保証物としての人質など,広範囲の質が設定された。近世には,動産質庶民金融(質屋)がさらに発展したほか,妻子を債権者の下で働かせて債務を返済する質奉公などが現れた。不動産の質入れも盛んに行われ,これが田畑永代売買の禁令の抜け道になるとして禁圧した江戸幕府も,名主の加判など一定の要件を備えた質入れは認めざるをえなかった。 (山川 日本史小辞典(改訂新版), 2016年, 山川出版社)
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