尊号事件(そんごうじけん)

尊号一件とも。江戸後期の朝幕間の事件。光格天皇は，実父の閑院宮典仁(すけひと)親王が禁中并公家諸法度の規定により大臣の下に着座していることに憤り，後高倉院・後崇光(ごすこう)院の先例をあげて太上(だいじょう)天皇の尊号を宣下しようとした。1789年(寛政元)天皇の内意を伝えられた老中松平定信以下の幕閣は，皇位につかない私親への尊号宣下は名分を乱すものとして反対。91年朝廷は公卿から異例の群議をとりまとめ，再度幕府に承認を求めた。幕府は92年強権を発動して，天皇の意向を断念させ，翌年武家伝奏正親町公明(おおぎまちきんあき)を逼塞，議奏中山愛親(なるちか)を閉門に処した。朝廷が関白・武家伝奏中心の従来の体制を逸脱し，広く公家衆に意見を徴する群議の形式で幕府に対峙した点に事件の意義がある。親王九十年忌の1884年(明治17)太上天皇の尊号と慶光(きょうこう)天皇の諡(おくりな)が追贈された。 (山川 日本史小辞典（改訂新版）, 2016年, 山川出版社)