伝馬(てんま)
古代から宿駅間で公用旅行者の貨客輸送をする馬。広義には人足を含む。(1)律令制下,郡ごとに設置され伝使などが乗用する馬。各郡5疋常備され,不足分は民間から徴発された。伝馬子などの労働力も郡内から雑徭(ぞうよう)を用いて徴発された。伝馬のルートは郡と郡を結び,駅路とは別系統で,大化前代の国造などの交通をもとに編成されたと考えられる。平安初期に駅伝制は再編成され,「延喜式」では伝馬は駅路の通る郡のみの設置となった。(2)室町時代,守護大名が百姓に伝馬を課していたことが知られる。それをうけて戦国大名は宿駅伝馬制を創設し,無賃・有賃で1日に使役できる伝馬の数をきめた。後北条氏は平時で1日に3疋,武田氏の無賃伝馬は4疋である。豊臣政権は伝馬50疋を京都―清須間の宿駅に課していた。(3)江戸初期の1601年(慶長6)徳川家康は東海道各宿駅に伝馬定書を出し,朱印状による伝馬使役を各宿36疋に統一し,積荷の量もきめた。この数が御定馬といわれ,寛永年間100疋に引きあげられた。朱印または証文(老中・所司代発行)による公儀の伝馬は無賃人馬とよばれ,大名など領主の駄賃支払い(のち御定賃銭という名で一定)による使役の駄賃伝馬とは区別された。幕府は伝馬維持のため助成金を与えたが,困難をきわめた。 (山川 日本史小辞典(改訂新版), 2016年, 山川出版社)
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