チベット
Bod[チベット],Tibet[英] 長江,黄河,ガンジス川,メコン川などアジアの諸大河の源流域であり,北の崑崙(こんろん)山脈と南のヒマラヤ山脈の間に挟まれた平均標高3500mのチベット高原をさす。漢文史料によると紀元前より,チベット高原東部には_(てい),羌(きょう)という民族が住んでいた。チベット語史料から確認できる歴史は,7世紀に中央チベットのヤルルン地方出身のソンツェンガムポ王がチベットに初の古代王朝(吐蕃(とばん))を開いてからである。この王朝のもとでインドと中国から仏教が導入され,その結果成立した僧院勢力はこれ以後のチベット史の主役となった。9世紀に古代王朝が滅んだのち,僧院は各地の氏族と結びつき,聖権と俗権が支え合うチベット特有の社会を構成した。13世紀にはクン氏と結びついたサキャ派が元朝の保護のもとでチベットを支配し,その後,ラン氏と結びついたパグモドゥ・カギュ派が勢力を張った。17世紀に入り,ダライラマ政権が成立すると,チベットの社会は仏教が世俗の優位に立つ完全な神権国家となった。ラサにはチベット仏教を奉じるモンゴル人,満洲人の巡礼者が雲集し,両民族はダライラマを支持するポジションを争って抗争を繰り返した。19世紀になると,チベットはカシュミール,中国から侵略を受けたが,1913年,清朝の崩壊に乗じてダライラマ13世は事実上の独立を果たした。しかし,51年中華人民共和国軍が進駐し,チベットは中国に併合された。現在,伝統的なチベット人の居住域は西蔵自治区,青海省,四川省,甘粛省,雲南省,ネパールとインドの北部山岳地帯とに分断されている。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)
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