反ユダヤ主義(はんユダヤしゅぎ)
anti-Semitism[英],Antisemitismus[ドイツ] ユダヤ教徒ないしユダヤ人を差別,圧迫,迫害しようとする思想および運動。反ユダヤ主義の歴史はキリスト教とともに古く,ユダヤ教徒迫害は中世ヨーロッパにもしばしばみられた(十字軍の時代,また黒死病流行の際のユダヤ人虐殺)。18世紀には啓蒙思想からユダヤ人に対する寛容も説かれたが,次の世紀には逆に新しい人種主義的反ユダヤ主義が生まれた。19世紀,とりわけ最後の四半世紀を覆った大不況以降,ユダヤ人を生物学的人種の通俗観念でとらえるようになった新たな反ユダヤ主義が登場した。これはそれまでのキリスト教の伝統的な反ユダヤ主義(「キリスト殺しの民」を許すな!)と区別されて,W.マルによって反セム主義と命名された。それはフランス革命以後進捗したユダヤ人解放や同化の過程を逆転させ,ユダヤ人問題の「最終的解決」をユダヤ人排斥や隔離にとどまらせず,ユダヤ人絶滅にまで導く狂信的憎悪・敵愾心をはびこらせるに至った。産業社会の矛盾や都市文化の退廃,近代政治社会のあらゆる否定的な現象を体現し,その原因をつくり出す悪そのものとして責任をユダヤ人に転嫁し,絶滅政策まで可能にさせる妄想やユダヤ陰謀論が醸成されたのは,反ユダヤ主義にリアリティを与える深刻な社会的危機が背景にあってのことで,ドイツのナチズムはまさに危機に依存しそれを存分に利用した運動であった。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)
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