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インド民族運動(インドみんぞくうんどう)

インドでは民族主義的な動きは19世紀半ばに始まり,19世紀末以降,インド国民会議派,全インド・ムスリム連盟などを中心に政治運動として発展した。民族運動は1947年のインド・パキスタン分離独立で一応その目的を達したが,独立後の国民国家建設期にも大きな影響力を保った。運動の担い手は,英語教育を受けて官職や専門職についた中間層,上層農民,資本家層などであった。しかし彼らは少数であり,圧倒的多数を占める農民大衆との間の深い溝を,どう架橋するかが課題となった。初めて大衆的な民族運動を組織したガンディーの運動のなかにさえ,エリートと大衆の緊張に満ちた関係がみられた。運動のもう一つの問題は,宗派対立であった。西欧化で先行したヒンドゥーと,遅れたムスリムの間には,中間層の形成にずれがあった。イギリスは遅れたムスリム中間層を保護する政策を採って,民族運動を分断した。他方大衆に訴えるとき,民族運動はしばしばヒンドゥー教とイスラームの復古主義的な動きを利用した。宗派対立は徐々に深まり,植民地インドが,インドとパキスタンの2国に分離して独立する原因となった。運動は初め,西欧の自由主義思想の影響を強く受けていた。理想化された西欧を基準にして植民地支配の矛盾を批判するのが,運動の主流であった。20世紀になると,このような行き方に対する批判がさまざまな方向から出現した。代表的なものの一つはガンディー主義である。西欧文明を根底的に批判する農本主義的な思想を,非暴力思想と結びつけたガンディー主義は,インド民族運動を主導する思想となった。もう一つは共産主義と社会主義である。しかしこれは主流とはならず,社会主義を穏健に解釈したネルー型社会主義が支持を集めるにとどまった。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)

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