インド

India インダス川に由来する言葉で,地理的名称としても国名としても使われる。地理的名称としては,ヒマラヤから南に向かってインド洋に突き出た楔形のインド亜大陸部をさす。この地域はサンスクリット文献では「バーラタヴァルシャ」(「バラタ族の国土」の意)などと呼ばれた。ペルシア語やウルドゥー語では「ヒンド」である。日本では古くから「天竺(てんじく)」として親しまれてきた。インドという地域は自然環境,言語,民族,宗教,社会慣習などあらゆる意味で多様性に満ちている。しかし前3世紀以降,一つの世界として意識されるようになり,一人の王が支配するのが理想と考えられた。遠心的な力と求心的な力がせめぎあう場がインドだといえる。インドの歴史は普通,古代(12世紀以前),中世(13世紀以降18世紀前半までのイスラーム諸王朝の時代),近代(18世紀半ば以降のイギリス植民地支配の時代),現代(1947年の独立以降)に分けられる。最近は,7世紀から12世紀を初期中世として捉えたり,18世紀を中心とする時代を近世として理解しようという考え方も出されている。元来インド亜大陸にはオーストロアジア語族の言語を話す人々が住んでいた。そこに前3500年頃ドラヴィダ諸語を話す人々(ドラヴィダ人)が進出し,さらに前1500年頃にはインド・ヨーロッパ語族の言語を話す人々(アーリヤ人)が移住してきた。アーリヤ人の宗教であるバラモン教は徐々に非アーリヤ的な民間信仰や習俗と融合し,前2~後3世紀の時期にヒンドゥー教に発展した。また前5~前4世紀からイスラーム支配が始まるまでの間,ジャイナ教と仏教が盛んに行われた。13世紀以降北インドとデカンをイスラーム王朝が支配するようになると,イスラーム的な要素とヒンドゥー教的要素が融合したインド・イスラーム文化が花開いた。16世紀に起こったシク教も,二つの宗教の融合の所産である。イギリス植民地支配が始まる18世紀半ば以後は西欧文化の影響が強まり,今日に至っている。インドの文化の特色は,長い文化接触の歴史を背景にさまざまな文化が共存し,重層的・多元的な構造を持っているところにある。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)

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