イラク

ティグリス,ユーフラテス両川下流域のメソポタミアを中心とする地域。狭義には現在のイラク共和国をさす。メソポタミア文明の中心地。紀元前3000年頃からシュメール文明が興り,アッカド,バビロニア,サーサーン朝による支配をへて,637年にイスラーム化。第4代正統カリフ,アリーはクーファを都とした。アッバース朝治下8世紀にはバグダードが建設され,以後イスラーム文化の中心地となったが,1258年にモンゴル軍により破壊されると,イラク全体の政治的地位も低下した。その後,オスマン帝国の地方行政組織に組み込まれるが,イギリスの委任統治をへて,1921年にバグダード,マウシル,バスラ州が合体する形でハーシム家のイラク王国がつくられ,32年に独立した。58年に王制が廃止され,イラク共和国となる。68年にバース党が政権を掌握。79年にサッダーム・フセインが大統領に就任すると,独裁化が顕著になり,同年イランとの戦争を開始(イラン‐イラク戦争),90年にはクウェートを占領したが,翌91年には多国籍軍により追い出される(湾岸戦争)。90年以降国連経済制裁下に置かれる。2003年,大量破壊兵器の所有やテロ支援などを理由に,アメリカ軍などが攻撃,バース党政権は崩壊した。民族的にはアラブ人が多数派だが,クルド人やトゥルクメン人なども多い。ムスリムが圧倒的だが,ナジャフ,カルバラーなどシーア派の聖地があり,宗教的には南部を中心にシーア派が多数を占める。キリスト教徒も少なくない。世界有数の産油国でもある。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)

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