移民(いみん)
emigration/immigration 人の移動は人類史の初めからみられたが,ふつう移民として議論されるのは,ヨーロッパを中心として諸大陸間の新たな経済的つながりができた「長い16世紀」以降の人の移動についてである。「長い16世紀」から18世紀中頃までの移民は,ヨーロッパから植民地への移民,およびアフリカやアジアからの強制的移民が中心であった。しかし,移民の本格的な波がやってくるのは,資本主義の拡大と交通手段の発達をみた「長い19世紀」においてである。この時期に拡大するのは,ヨーロッパ各国からその植民地への移民,およびヨーロッパやアジア各国からアメリカ合衆国,カナダへの移民である。この19世紀に入って,強制的移民はほとんど姿を消した。第一次世界大戦以降,革命やファシズム,二つの世界大戦と多数の局地戦,あるいは冷戦の成立と崩壊が,亡命や難民を含めて新たな人の移動を促進した。第二次世界大戦以後には,後発諸国全体からアメリカおよび西欧諸国への労働移民が,合法的・非合法的な形態をとって拡大した。20世紀末以後は,移民の向かう先は多極化し,アメリカや西欧諸国のみならず,日本,オーストラリア,アラブ産油国などへの移民,あるいはヨーロッパやアフリカといった地域内での移民が展開され,移民はまさにグローバル化しつつある。また移民の性格も,多国籍企業の発展に伴うキャリア型の移動やいわゆる頭脳流出といわれるような移民へと拡大している。現在では,何らかの形で自国を離れて住む人の数は,1200万人といわれる難民を含め,世界全体で8000万人にのぼるといわれる。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)
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