貴族(きぞく)
・〔ヨーロッパ〕Peerage[英],Adel[ドイツ],noblesse[フランス]出生,財産,功績などにより,一般人とは異なる特別な社会的地位と政治的特権を与えられ,独自の身分意識で結ばれた特定の家族とその所属者。すでにギリシアのポリスにおいて貴族政治が行われ,ローマの共和政においても血統貴族パトリキが特権的地位を占めた。古代ゲルマンには部族の首長がおり,フランク王国時代には伯や辺境伯がつくられ,その後身を含めて中世封建制の時代には支配階層を形成した。王を頂点とし,「公」「伯」など爵位を持つ上級貴族から無爵位の騎士まで上下の別はあったが,元来みな「戦う人」(帯剣貴族)であり,自分の領地を支配する領主である。近世に入り火器の発達による戦術の変化や,絶対主義国家による権力集中が始まるとともに,騎士・支配者としての貴族の役割は有名無実化し,貴族は国王権力に寄生して政治的・社会的特権層を形づくることになる。貴族の地位は本来血統によって伝えられるものとされたが,「法服貴族」など司法・行政上の功績,あるいは武勲により,世襲的に,あるいは一代限りで貴族に叙せられるものも出,栄誉称号的なものに変わっていった。現在制度的にはイギリスなど僅少の国に残っているにすぎない。・〔中国〕地方豪族の家格が門閥と寒門(かんもん)に分かれ,中央高官の特権を世襲的に独占した豪族を貴族という。特に六朝(りくちょう)時代は門閥貴族の勢力が強かった。皇帝権力への寄生によって貴族が生まれたのか,地方社会が貴族を生み出したのかで見解が分かれる。後者の立場では,九品中正(きゅうひんちゅうせい)によって地方の郷品(きょうひん)が中央の官品を決定したとし,魏晋南北朝時代から唐代までを中世貴族制の時代と位置づける。前者の立場では秦漢から隋唐までを皇帝と小農民の時代として古代とみる。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)
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