ナショナリズム
nationalism 国民ないし民族という政治的共同体の価値を至上のものとして重視,尊重,宣伝する意識・運動をさす。近代においてフランス革命国家の意識に始まったが,それに対抗したドイツ,スペイン,ロシアなどでは対抗的な国民意識の高揚が起こった。帝国からの解放,他民族支配からの解放を求める意識・運動としても,オーストリアからの解放を求めたイタリアやイギリスからの解放を求めたアイルランドにみられた。やがて20世紀には欧米帝国主義,植民地主義からの解放を求めるアジア,アフリカ,ラテンアメリカの運動となった。ロシア革命をなしとげた共産主義者たちは世界革命のために反帝国主義のナショナリズムと結びつこうとした。しかし,新しく生まれたソ連は,民族の自決権を尊重する国家連合と称したが,民族的な自立傾向はナショナリズムとして否定的に扱われた。1930年代のナチズムは「国民社会主義」と称したように,ドイツ民族を至上のものとしてユダヤ人の大量抹殺をめざしたウルトラ・ナショナリズムであった。第二次世界大戦後,東欧に拡大した社会主義世界はソ連を盟主としており,これに抵抗する各国内の動きはナショナリズムの現れだと考えられる。社会主義の崩壊の過程で国際主義に代わってナショナリズムが強まった。最も悲劇的・病的な様相をみせたのは,ユーゴスラヴィアの民族浄化政策である。ユダヤ人のナショナリズムとしてのシオニズムがアラブ人を追い立てて民族の故地に自分たちの国家イスラエルを建設することをめざしたために,パレスチナ人との果てしない戦いを招来しているのもナショナリズムの悲劇である。ナショナリズムは歴史上大きな役割を演じ,歴史を左右したといえる。その作用には肯定的なものも否定的なものもあった。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)
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