新約聖書(しんやくせいしょ)
New Testament 旧約聖書と並ぶキリスト教の聖典。旧約聖書がヤハウェ神による救いの約束を記しているのに対し,新約聖書はイエス・キリストによる救いの実現を明らかにしている。新約聖書は全27の文書からなる。初めにイエスの生涯と教説を記した四福音書が置かれ,使徒たち,特にペテロとパウロの宣教活動を記した使徒言行録がこれに続く。次に使徒パウロの作とされるローマ人への書簡以下13の書簡がある。そのうちの若干のもの,特に・,・テモテ書,テトス書の牧会書簡はパウロの手紙の断片を含むが,彼の弟子の作と推定される。ヘブル書は明らかにパウロの作ではなく,作者不明の一種の論文集である。ヤコブ書,・,・ペテロ書,・,・,・ヨハネ書,ユダ書は特定の教会,個人に宛てたパウロの書簡と異なり,一般に公開されたもので公同書簡と呼ばれる。最後のヨハネ黙示録は黙示文学に属し,ローマ帝国の迫害下のキリスト教徒に忍耐と希望を説き,世の終末における神の審判と信者の浄福を記している。新約聖書の言語は,ヘレニズム世界で広く用いられたギリシア語,すなわちコイネーである。マタイまたはヨハネ福音書は,本来アラム語で書かれたという説はまだ通説となっていない。新約聖書の各巻は,1世紀中頃から2世紀中頃までに書かれたが,2世紀中頃にグノーシス派の異端が教会内の信仰を攪乱する危機が生じ,彼らは種々な文書を用いて,その所論を裏づけようとしたので,正しい聖典を編纂する必要に迫られた。使徒的起源を持ち,福音を正しく伝え,信仰生活の基準となるものが選ばれたが,その決定までには多くの歳月を要し,現行の27文書が正式に公認されたのは,397年のカルタゴ会議においてである。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)
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