自然法(しぜんほう)
natural law[英],droit naturel[フランス],Naturrecht[ドイツ] ヨーロッパ政治思想史,法思想史のなかで重要な機能を果たしてきた,超越的で永久不変な法規範の観念。その萌芽は古代ギリシアの自然哲学より現れるロゴス思想にみられるが,ヘレニズム時代のストア学派において特に明確な形をとり,キリスト教的社会観の一要因として中世のスコラ哲学に受け継がれた。その際自然法は,現存の社会秩序を道徳的に基礎づけるとともに,他方ではゲルマン的な権利意識との結合において恣意的な権力行使や実定法への批判の武器ともなりえた。この2側面は「世俗化」による質的変化をこうむりつつ近世の合理主義に担われ,等しく国家契約説を前提としながらも,ロックらの革命的「自然権」思想と,啓蒙専制主義にきわまる警察国家のイデオロギーの両面に表現された。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)
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