遊牧民(ゆうぼくみん)
牧畜の一種である遊牧に従事する人々。サハラ,エジプトからアラビアに至り,黒海,カスピ海,アラル海北岸からカザフスタン,ジュンガル高原をへてモンゴル高原に達する乾燥砂漠,草原地帯に分布する。遊牧とは,その主要財産である家畜(羊,ヤギ,馬,ラクダ,牛を五畜と呼ぶ)を放牧しつつ住居(天幕),家財とともに,夏営地と冬営地との間を移動する牧畜形態。通常は集団ごとに一定の領域を持ち,家畜の出産管理技術を持つが,自然状況に左右されるきわめて不安定な生産形態であるため,富の蓄積にもとづく生産力の向上には一定の限度がある。したがって交易と,略奪軍事力としての馬が重視されたほか,古い社会集団である氏族が長い間温存され,そのうえに形成される社会,国家にも古い血縁的要素がつきまとった。史上最も活躍したのはトルコ,モンゴル,アラビアの遊牧民である。しかし今日では,いずれも定住化の傾向にあり,遊牧民は急速に少なくなって国家や周辺地域への影響力を失っている。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)
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